「緊張理論」概説

古典的な社会学の理論に、Robert K. Mertonの「緊張理論strain theory」がある。「ストレイン理論」とも呼ばれる。もともとは1950年頃、犯罪の動機を理論化するためにつくられた概念だが、社会構造を知る上でも有用だと思うので紹介する。

わかりやすい図は以下。

Mertonは、人々がどのような目標をもつか、あるいはどのような手段でそれを達成するかによって人々を区分した。上の5つのセルがそれだ。

縦軸の目標(cultural goal)とは、一昔前のアメリカらしく、「アメリカン・ドリーム」のことである。ようは「金と権力」のことだ。横軸の方法(Institutionalized means)は、その目標を達成するための正統的、権威的とされる手段のことである。

それでは5つの区分を見てみよう。

伝統タイプ Conformity

成功は努力で勝ちとるもの――

いわゆる「社会の担い手」がこの伝統タイプだ。彼らは既存の手段によって、社会的成功を得ようとする。わかりやすくいえば「良い大学を出て良い企業に入る」のがこのタイプだ。当然というか、犯罪率はもっとも低い。

:大企業社員、官僚、医師。

革新タイプ Innovation

努力? 倫理? そんなものは非効率

富を追い求めることに積極的だが、伝統的な方法や価値観を拒絶する。富や権力のためならなんでもする。犯罪率がめたんこ高い。私の個人的なイメージは、「オレオレ詐欺」「経営コンサルタント」。

例:スティーブ・ジョブズなどの起業家、マフィア、水商売、汚職官僚

反復タイプ Ritualism

ひたむきにがんばっていればいつか報われるだろう……

既存の手段に依拠しているが、富や権力といった目標はあきらめている。勤勉や忠実さを美徳と考えるが、富に対しては消極的で、それなりの収入で人生を楽しもうとする。たぶん典型例は、「軽自動車をカスタムする人」。あと新興宗教にはまる人が多いらしい。

例:中小企業社員、下級公務員、自営業者など。

逃避タイプ Retreatism

とにかく、放っておいてくれ……

既存の手段を退け、目標に対しても消極的。社会から逃避し、孤独に隠遁生活を送るか、逃避タイプ同士でコミューンを形成する。さいきんではBライフ(小屋ぐらしとか自給自足)をしてる人がこれに当てはまると思う。

例:ニート、引きこもり、ヒッピー、ノマドワーカー?

革命タイプ Rebellion

こんな世の中は間違っている!

逃避タイプと同様、既存の手段と目標を拒絶するが、社会から逃れるのではなく、逆に社会に積極的にはたらきかけて変革をもたらそうとする。

例:学生運動家、アナーキスト

まとめ:みんな違ってみんないい

Mertonは革新タイプの犯罪率が高いとしている。なぜかといえば、だれもが「良い大学から良い企業に」というルートを辿れるわけではないからだ。社会的成功を追い求めているが、その手段はごく少数に限られている。この「緊張」によって犯罪が生じる、というのがMertonの理論。

おもしろいことに、「じゃあ革新タイプをぶっつぶそうぜ」とはならない。Mertonはそれぞれの成員が自らの役割を果たすことによって社会がうまく機能しているとする機能主義者(functionalist)だ。たしかに、革新タイプがいなければiPhoneもAmazonもなかっただろうし、そもそも電気や自動車もなかったかも。

革命タイプでさえ、社会には必要なのである。社会が硬直化すれば、維持発展できないからだ。革命家が新しい価値観、手段を提唱し、浸透させ、さらにそのなかで4つのタイプが生まれる。そしてさらに、新しい革命家が生まれる。そういった社会のサイクルがあるようだ。近代社会を終わらせろなどと考える人も、社会にとっては有益となりうるのだ。

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