任意保険不要論

一種の信仰となっている「自動車の任意保険」を解体する試み。

任意保険はひとつの信仰となっている。例えば、任意保険に加入することは、「被害者を思いやること」で、「まともな社会人」の証で、道徳的に優れていると考えられている。

もちろん、人は経済合理的な生き物とはいえない。「安心を買う」というメリットはあるし、そういった買い方も合理的だ。

問題は、任意保険に加入していないというだけで人格否定をする風潮が、しばしば散見されることである(ネット上だけでなく、私の親戚にもいる)。この一種の魔女狩りのような文化的抑圧が、主体の意思判断を待たずに、半ば強制的に保険加入に導くとすればそれは問題である。

任意保険は必要なのか? それを考える思考材料を書いていきたいと思う。

保険はバクチである

基本事項。原理としては、保険はギャンブルと変わらない。大半の客は損をし、ほんの一部の客は得をする。そして胴元は決して損しない。ギャンブルと違うのは、リスクを小さくするか、リスクを大きくするかという点であり、楽しむか、悲しみを抑えるかの違いである。

保険への「投資」はギャンブルと同様、期待値が投資額を上回ることはない。

任意保険の生涯支出は

基本事項2.スタンダードなプランの場合、任意保険の生涯支出は50年間で約300万円(参考)。これを高いとみるか、安い買い物と感じるかは人によるでしょう。

実はどうとでもなる交通事故係争

どうとでもなるんです。

「過失割合」は判例で決まっている

過失割合は、事故のパターン毎にほとんど完全にマニュアル化されている。「前例のない斬新な事故」でない限り、「判例タイムズ」という過去の判例集に則って過失割合が決まる。

判例タイムズに基づく過失割合は、ネット上で調べればいくらでも見ることができる。前提知識があれば、保険屋の無法な請求を棄却することができるのである。

無料で弁護士に相談できる

また、市町村には交通事故に関して無料で弁護士相談できる「交通事故相談所」が整っている。天下り組織の交通安全協会でも無料相談を実施していることがあるので、ぜひ活用しよう。

また、日弁連交通事故相談センター交通事故紛争処理センターといった公益法人でも無料で相談に応じてくれる。実はこういった公的機関があるので、保険の「弁護士特約」がなくても、無料で保険屋に対抗できるのである。

1000万円のポルシェの賠償額

どれだけ安全に気を遣っていても、否応なく事故に巻き込まれることはある。

あなたが山道で軽自動車を運転していると、暴走するピカピカのポルシェに追突された。大事故だ。幸い双方に怪我はなかったが、どちらの車も明らかに修復不可能。あなたは青ざめる。

賠償金は実際、どれくらいになるだろうか?

安全運転していれば賠償金はたかが知れている

実は安全運転をしているのであれば、過失割合はたかが知れている。

相手の保険会社は、あなたは停止していないのだから、1割はあなたの過失だと主張する。つまり過失割合9:1だ。新車のポルシェは1000万円。あなたの軽自動車は100万円。

過失が1割のあなたは相手に100万円払わなければならない。一方で、過失9割の相手はあなたに90万円を払う。さて、あなたがポルシェのオーナーに支払う金額は――10万円だけだ。

もちろん、保険会社に入っていれば100万円は保険会社が払ってくれるのだから、あなたには90万円が入ってくる。この点だけ見れば、保険に入った方がよく感じるかもしれない。

だが、ここで言いたいのは、ふつうに運転していれば、車を失うことはあっても経済的に破滅することなどないということである。

当然だが「居眠りした」「スマホに気をとられた」という理由で真新しい高級車に追突したら、一巻の終わりだ。そのような恐れのある人は任意保険に入るべきだろう。私はそもそも車に乗らないことをおすすめする

高級車はそんなに走ってない

高級車にぶつけたら……と心配する人は多いが、実は高級車はそれほど走っていない。

消費者の購買行動のための情報探索・発信に関する研究( II)より。母数は500人、全国男女からインターネットでの回答。

約9割の自動車は300万円以下だ。500万円以上の車は1.8%で、50台に1台以下。しかもこれは「購入価格」だから、賠償基準となる市場価値としてはさらに落ちることになる。

高級車が近くを走っていたら、警戒心を高める。距離を離す。場合によっては、路肩に寄せてやり過ごす。それだけで高級車との事故は予防できる。

人身事故の場合

自動車と自動車同士の事故で、物損事故であれば、破産しないことがわかった。問題は慰謝料や医療費である。人身事故の場合はどうなのか?

ポルシェオーナーが死んだ

先のポルシェオーナーが死亡したとして(迷惑な話だ)、医療費や逸失利益(生きていれば稼げた額)、1億円程度の損害賠償が生じたとする。この場合、自賠責から3000万円が支払われる(実際には重過失があるので1500万円)。残りの7000万円だが、これは過失割合の1割の負担でよいから、対人保証は700万円となる。(計算が間違ってたら教えてください)

700万円という金額についてどう思うかは人によるだろうが、思ったよりも少ないのではないだろうか。

なお、支払い能力がない場合は自己破産の適応となる。

飛び出してきた子どもを避けられず……

飛び出してきた子どもを避けられず死亡させてしまった場合。これは考えうる最悪のパターンだし、ポルシェオーナーの死亡の100倍悲しい事件だ。この場合の過失割合は25~30%ほど。おそらく損害賠償額は、自賠責分を除いても、1000~3000万円は必要になるだろう。

保険に入っておらずこういった事故を起こしてしまったら? もはや誠実に償うしかない。車を運転することは常に人を殺すリスクを伴う。そして人を殺すとは、一生をかけて償うことである。

実は「子どもの飛びだし事故」は稀である

ところで、「飛び出した幼児を轢き殺してしまう」確率よりも、はるかに「飛び出した老人を殺めてしまう」確率の方が高い。

警察庁交通局「平成28年における交通死亡事故について」より

5~9歳に小さなピークがあるものの、このグラフだけで言えば、横断中の死亡者の8割以上は高齢者だ。

実は交通事故死亡者の半分以上(54.7%)は高齢者である(同資料より)。これは老人の認知能力の低下とともに、老人が事故の傷害によって「死亡しやすい」ことが原因なのだろう。

老人の慰謝料は高くない

こう言ってはなんだが、子どもよりも老人の方がはるかに賠償額が小さくなる。老人・高齢者が死亡事故にあったときの慰謝料相場は、概ね2000~2200万円といわれている。実際に判例を見たわけではないが、自賠責の上限を超過することはあまりなく、あってもわずかだと思われる。(殺していいとは言っていない)

死亡事故はどれくらい起きるのか

日本の自動車保有台数は、平成29年度、自家用乗用車で61,018,814台。これは貨物車や二輪車を含めた全体の車両の約75%程度である(資料)。実際には1人で複数台所有する人もいるだろうから、50,000,000人の乗用車ドライバーがいると考える。

死者数は年々減っており、平成29年中の交通事故死者数は、3,694人。このうち、約1300人が歩行中、約1300人が自動車運転中、約600人が二輪車運転中、約500人が自転車運転中の死亡事故である。全体の死亡者のうち、25.5%は電柱に突っ込む、バイクの転倒などの自損事故である。

死亡事故の車両のうち、第1当事者(過失割合の高い方)となる普通乗用車の比率は合わせて67%。なお、この数字には大型バスや大型貨物車を含むので、一般的なドライバーとして軽トラ、普通乗用車、軽自動車に限定すれば60%。ちなみに商用車全体で10%、二輪車10%、自転車6%、歩行者4%と続く。(資料

第2当事者に普通乗用車が含まれる可能性も高いので、普通乗用車が当事者となる死亡事故は80%とここでは想定する。また、人数=事故件数とする。

ここで、自家用車による死亡事故の件数は(3694)*(1-0.255)*0.8≒2200件となる。

50年自家用車を運転して65歳以下の人を殺す確率は0.062%

「一年間のうち、自家用車のドライバーが死亡事故を起こす確率」を計算すると、2200/50000000=0.0044%となる。なお、これは「自分が死ぬ事故」を含んでいるので、「相手も自分も死ぬ事故」の分を考慮して、「相手が死ぬ事故」を0.0025%と想定する。さらに賠償額の大きくなると予想される65歳以下の死亡者率は1/2なので、経済的に懸念される死亡事故を起こす確率は約0.00125%

すなわち、「50年間自家用車を運転し続けて65歳以下の人を1人以上轢き殺す可能性」は、1-(0.9999875)^50≒0.062%、つまり約10000人に6人となる。

1年運転した場合の死亡事故のリスクは1250円

死亡事故を起こした者に平均1億円の賠償金が必要となった場合、そのリスクの期待値は1年で1250円、50年で約63000円ということになる。もちろん、賠償額は過失割合など考慮するともっと安くなる。

これ、安すぎないかな。理論的にはドライバーが1年間で1250円払えば、すべての死亡事故が保証できることになるのである(自賠責分を除く)。任意保険がおそろしいぼったくりになってしまうのだが、計算が違ってたら教えてください。

まとめ「任意は任意」

  • 過失割合の係争は保険に入っていなくても可能
  • 高級車はそんなに走っていない
  • 児童の飛び出しでの死亡事故は少ない
  • 自賠責分を超過する死亡事故の確率は低い
  • 保険料ってなんか高くない?

以上を踏まえて、任意保険に加入するかどうかは人それぞれだ。各々が自らの判断で加入すればいい。任意なのだから。

個人的には、任意保険に入る必要性は感じないので、私は、バイク、四輪ともに入ってません。人に言うとめんどくさいので言わないですが。気が変わって加入したら報告します。

いずれにせよ、交通事故はなんとしても避けるべきであることには変わりません。経済的リスクでもあるし、行政的なリスクでもあり(免許失効など)、司法的リスクでもあるが(実刑)、なによりも倫理的リスクが伴う。経済的な問題だけではないのです。

参考:自賠責の支払限度

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