読者さんの質問に答えます。

経団連に続いてトヨタまで「終身雇用は無理」と言い出しました。
リストラが普通に行われていることを考えると終身雇用は既に終わっていたという方が正確だと思いますが、とにかく建前上の終身雇用すら否定したことで、いわゆる氷河期世代の様な状況が世代を問わず増えていくのではないでしょうか。
そういう明日も知れない状態が当たり前の世の中になった場合、アナーキストは増えると思いますか?

経団連やトヨタのドンが「終身雇用は無理」と発言しました。

そのことによって、日本の労働者、大企業社員からプレカリアートまで、将来の雇用状態に対して不安をいだいているようです。このことについて、思うところを書きます。

Zebra and Parachute by
Christopher Wood

だれがクビになるのか?

大企業ほど無能は多い

私はニュースを見ないため、彼らがどのようなニュアンスで語ったかを知りません。ただ、私が感じたのは「そりゃそうだな」でした。

内資系大企業に数多くいる「驚くほど無能な社員」を、私は個人的な経験から知っています。

トイレやコンビニに行ったまま戻ってこない。午前中だけしか仕事をしない。就業時間中に寝ている。ずっとYoutubeを見ている。2時間でできる仕事を8時間に引き伸ばす。そもそも根本的に能力が足りず、仕事をさせるほど損失が大きくなる……。

こういった「怠惰で無能な労働者」は、一般的には下層労働者に多いと思われがちですが、逆です。大企業ほど仕事をしない無能社員を多く抱えています。

なぜか? 社員数の少ない中小企業では人事権を持つ雇用者の目が行き届きやすく、また経営状況に余裕がないことが多いため、そのような社員はよく管理監督されます。それが不可能であれば、いじめやパワハラなどのグレーな方法によって解雇されます。まあ日本の中小企業なんてやりたい放題で、終身雇用などはじめからあってないようなものです。

大企業の場合は、個々人の無能社員まで人事管理が行き届かない場合が多いこと、経営状況に余力があり、余剰人員を抱えることが可能なこと、また違法すれすれの「グレーな手法」が使いづらいことから、無能社員を抱えることになります。また、労働者の権利が強くクビにならない状況では、出世競争に破れた社員が無能社員化する可能性も高い。

こういった無能社員はまさに「終身雇用」の副産物だといえます。大企業の無能社員は、下層労働者のように年間200万円ほどで維持できるわけではなく、40歳や50歳となれば年収800万円ほどになることもあり、企業の大きな負担となります。

こういう実際にはたいして働いていない社員は、実は欧米の大企業でも多数存在します。ただ、日本ほど数多くはないだろうと思います。その違いは「終身雇用」にある。

私が経団連やトヨタのおっさんから感じたのは、「こういう社員はバシバシ切らなきゃいけなくなるよ」という宣告であり、これはまったく合理的だと感じました。

終身雇用とは何だったか

「終身雇用」というと、労働者が勝ち取った権利というイメージがありますが、雇用する側にとって有用なものでした。熟練労働者が辞めてしまうと、新規募集や、新規の教育や養成訓練に多額の費用が必要だからです。

日本の大企業の社員の給料は、エリート大卒が入る企業とは思えないほど給料が安い。10年、20年勤続してやっとまともな給料となります。いわばニンジンを遠く先まで伸ばして、それまで一生懸命働いてもらおうという算段です。

多くの新入社員ははじめに低い給料で呻吟して、年収800万円の使えないおじさんおばさん社員にイライラしながら、いつかは給料があがるだろうと働き続けます。こういった年功序列の世界では、労働者はさっさと転職するよりは、ひとつの企業でなんとか耐え抜くことを覚えます。サービス残業やパワハラだらけの飲み会もこなします。

こういった社員は、企業の理不尽な社風や命令を受けいれ、従順で勤勉にはたらくために企業にとって都合のよいコマとなります。

終身雇用が生みだしたものは、悪名高い「新卒一括採用」があります。これは終身雇用のコインの裏側です。

解雇規制の強い国ではいずれも新規採用に対して非常に慎重になります。日本の「就活」の異常な状況はその慎重さの反映でもあります。新卒一括採用には、若くてフレッシュな新入社員を社員教育によって「熱いうちに打つ」ことによって、社風に馴染ませる効果があります。まあ、世間知らずの若者を企業の兵隊にする一種の洗脳です。

日本人はよく「○○社の自分」ということにアイデンティティを持つと言われていますが、会社への帰属意識が非常に強い。これは若いうちからそういう社員教育を受けているからだと言えます。

「企業に忠誠心をもち、長く働いていればいつか報われる」という考え方は、労働者が勝手に抱いた幻想というよりは、企業が離職率を下げて都合のよいコマにするために植えつけた神話とも言えます。

終身雇用破壊がもたらすもの

一労働者として言えば、私は終身雇用が終わることにたいして楽観的です。失業率はあがるでしょう。転職率があがるでしょう。しかし、雇用流動性があがるからです。

私が疑問に思うのは、大企業のおじさんおばさんよりも、底辺労働者の方が終身雇用破壊に恐怖を抱いていることです。

雇用流動性があがれば、使えない社員は大企業からこぼれ落ちるわけですが、それだけ底辺労働者が成り上がる可能性があがるわけですから、少しは楽観して良いと思います。

「氷河期世代の様な状況が世代を問わず増えていく」か? これは逆でしょう。氷河期世代とはまさしく「終身雇用」の裏側である「新卒一括採用」によって生まれた世代ですから。「能力はあるのに劣悪な待遇の職しかない」という状況はむしろ改善されるでしょう。

解雇規制が緩まれば、失業者が増えてアナーキストが増えるでしょうか?

たしかに失業率はあがるでしょうが、それほど社会不安は強まらないでしょう。最近膾炙している神話として、「経済合理性」が上昇することによって労働者の総数が減るというものがあります。つまりAIやロボットが労働者に置き換わるので失業率がとんでもなくあがるぞーという恐怖です。

この点は安心していいです。資本主義は経済合理性よりもシステムの維持を優先します。失業率の上昇は確実にシステムに対する脅威となります。貧しくて暇のある失業者は革命や階級闘争の原因となるのでシステムは放っておきません。

ケインズが「週15時間労働」を予言して90年経ちますが、経済効率的にはそれが可能になっています。じゃあなんで私たちは週40時間働いているのか、といえばデイヴィッド・グレーバーが言うとおり「クソ仕事bullshit jobs」が量産されているからです。この点では共産主義も資本主義も変わらないのです。

今後も無意味で価値のない仕事を労働者は強いられるでしょうが、ともあれ労働者向けの仕事はなくならないでしょう。システムがクソ仕事を生産してくれるので。

終わりに

  • 大企業の無能社員がクビになる。
  • 底辺労働者が大企業に採用される可能性が高まる。
  • 社会不安は増大しない。

そんなところかと思います。思ったより普通の意見でつまらなかったかもしれないし、資本家よりの意見でがっかりしたかもしれませんが、上記が率直な意見です。

かつて、日本の大企業の女子社員は「お茶くみ」や「男性社員の結婚相手」として雇用されていました。今となると信じられないのですが、余力のある企業はどうでもいい人材をやまほど抱え込みたがるものです。

「終身雇用が終わる」というのは、市場のグローバル化と、日本経済の冷え込みによる当然の結果だと思います。どうしてこのようなことがニュースになったりするのかわかりませんが、まあ今後は財界主導で転換していくぞというメッセージなのでしょう。

質問の「アナーキストは増えるか?」という問いかけについては、増えない、と私は考えます。雇用流動性が上昇して「能力主義」が広まることは、むしろ階級への意識が弱まることを意味するからです。人々はアナーキズムなんて勉強するより、がんばって有能な労働者になることを望むでしょう。すなわち、資本主義システムはより一層強化されるでしょう。

日本のアナーキズムの詳細についてはまた別の機会に書きます。

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