テッド・カジンスキーの短編小説を訳しました。

左翼がいかに革命を潰し、体制を維持するかが描かれています。原文はこちら

The Icebergs by Frederic Edwin Church

愚か者の船

むかしむかし、船長と航海士たちは、船乗り精神のうぬぼれをつよめ、傲慢となり、あまりに得意になったために、ついに狂ってしまった。彼らは船を北へ向け、氷山や危険な浮氷に遭遇するまで航海を続けた。そしてますます危険な水域へと北進した。船乗り精神の輝かしい最大の偉業を達成するという目的のためだけに。

船の緯度が高まるにつれ、乗客と船乗りはだんだん不快になってきた。彼らはたがいに口論しはじめ、生活について不平を言いはじめた。

「くそいまいましい」と甲板員は言う。「これが今までで最悪の航海でなければな。デッキは氷で滑る。見張りをすれば風がジャケットをナイフのように切る。帆をたたむたびに指が凍ってしまう。これで月にたったの5シリングなんだから!」

「それが悪いことですって!」女性の乗客が言った。「私は寒くて眠れないのです。この船の女性は男性と同じだけの毛布を持っていない。不公平です!」

メキシコ人の船乗りが割り込んだ。「¡Chingado!(クソ)! 俺たちは白人船乗りの半分の賃金しかもらってない。こういう天候じゃ俺たちはたくさん食べなきゃいけないんだ。俺たちは十分な分け前をもらっていない、白人はたくさんもらってるのに。そして最悪なことは、航海士たちがスペイン語じゃなくて英語で俺たちに命令することだ!」

「私には他のだれよりも不平を言う理由がある」とアメリカン・インディアンの船乗りは言った。「もし白んぼが私たち先祖代々の土地を奪わなければ、私はそもそも船に乗っておらず、この氷山と北極風のなかにいなかっただろう。私たちは穏やかで素敵な湖でカヌーを漕いでいただろう。その埋め合わせを私は受けるべきだ。少なくとも、船長は私が金を稼げるようにサイコロ博打を開催させるべきだ(訳注:これはインディアン・カジノの風刺)」

甲板長は発言した。「昨日、私がちんこを咥えていたからという理由で、一等航海士が私を「フルーツ(ゲイの隠語)」と読んだ。そんな名前で呼ばれることなくちんこを咥える権利が私にはある!」

「この船で虐待されているのは人間だけではない」と、乗客のなかの動物愛好家が割り込んだ。彼女の声は怒りに震えていた。「なぜか。先週私は二等航海士が船の犬を蹴っているのを二度も見た!」

乗客の一人は大学教授だった。彼は手をぎゅっと握って叫んだ。

「まったくすべてひどいことだ! 不道徳だ! レイシズム、セクシズム、種差別、ホモフォビア、そして労働者階級への搾取! 差別だ! 私たちは社会正義を持たなければならない:メキシコの船員に平等な賃金を、すべての船員に高い賃金を、インディアンに賠償を、女性たちに平等な毛布を、ちんこを咥える権利の保証を、そしてもはや犬を蹴らないことを!」

「そうだ、そうだ!」乗客は叫んだ。「アイ・アイ!」乗員は叫んだ。「差別だ! 私達は権利を要求しなければならない!」

船の給仕は咳きこんだ。

「ごほん。みなさんは、不平を言うもっともな理由をお持ちです。しかし、私たちがほんとうにしなければならないのは、この船の向きを変えて南進させることだと思います。なぜかというと、このまま北に向かっていけば遅かれ早かれ難破するでしょうし、そうしたら賃金、毛布、ちんこを咥える権利は何の役にも立たないでしょう。皆溺れてしまうから」

しかしだれも彼に注意を向けなかった。なぜなら彼は単なる給仕だからだ。

船尾甲板(訳注:poop deck。一般にpoopは「うんち」の意)の上で、船長と航海士たちはその様子を見聞きしていた。彼らは互いに微笑んでウィンクをした。船長のジェスチャーで三等航海士が降りてきて、乗客と乗組員が集まっているところへ行き、彼らの間にわけいった。彼は非常に真剣な面持ちをしながら、次のように話した:

「私たちオフィサー(高級船員)は、この船の上でまったく釈明できないことが起きていたことを認めなければなりません。あなた方の苦情を聞くまで、状況がどれほど悪くなっていたか気づきませんでした。私たちは善意の人間であり、あなた方によって正しいことをしたいのです。しかし――まあ――船長はかなり保守的で自分のやりかたがあるのです。そして彼が根本的な変更を加えるより前に、少し刺激してやる必要があるかもしれません。私の個人的な意見としては、もしあなた方が激しく抗議するのであれば――しかしつねに平和的に、そして船上のルールに反せずに――あなた方は船長の慣習を脱しさせ、まったく正当にもあなた方が不平を言う問題について彼に発言させることができるでしょう」

こう言い終わると、三等航海士は船尾甲板に戻っていった。その去り際に乗客と乗組員は彼に向かって罵った。妥協者! 改革者! 善良なるリベラル! 船長の手先! それでも、彼らは彼の言うとおりにした。彼らは船尾甲板の前に集まり、オフィサーたちを侮辱し、権利を要求した。「私はより高い賃金とよい労働条件を求める」と、甲板員は叫んだ。「女性のための平等な毛布」と女性の乗客は叫んだ。「スペイン語で命令を受けたい」とメキシコの船乗りは叫んだ。「私はサイコロ博打を経営する権利が欲しい」とインディアンの船員は叫んだ。「私はフルーツと呼ばれたくない」と甲板長は叫んだ。「もう犬を蹴ってはならない」と動物愛好家は叫んだ。「革命は今だ」と教授は叫んだ。

船長と航海士たちは一緒に集まって数分間話し合い、その間中、互いにウインクし、うなずき、そして微笑んだ。それから船長は船尾甲板の前に出て、そして慈悲にあふれた素晴らしい演出で、つぎのように発表した。甲板員の賃金は月6シリングにあがる。メキシコ人船員の賃金は白人船員の3分の2の賃金に引き上げられ、そして帆を畳む命令はスペイン語で行う。女性の乗客にはもう一枚の毛布を。インディアンの船乗りは土曜日の夜にサイコロ博打を行うことが許される。甲板長は秘密のうちにちんこを咥えるのであれば、フルーツと呼ばれないだろう。そして、厨房から食べ物を盗むなどひどいことをしない限り犬は蹴られない。

乗客と乗組員はこれらの譲歩を大きな勝利として祝った。しかし翌朝、彼らは再び不満を感じるようになった。

「月に6シリングはあまりに少ない。それに帆を畳むときに私の指は凍ってしまう」と、甲板員はぼやいた。「私はまだ白人と同じ賃金と、この気候のために必要な食糧を得ていない」とメキシコの船員は言った。女性の乗客は、「私たち女性には、まだ寒さをしのぐのに十分な毛布がない」と述べた。他の乗組員と乗客は同じような不満を表明し、そして、教授は彼らを駆り立てた。

それらが終わったとき、給仕は話しはじめた――今度はもっと大きな声で、みなが彼を無視しにくいように。

「厨房からパンを盗んだことで犬が蹴られたり、女性に平等の毛布がないこと、そして甲板員の指が凍えることはまったくひどいことです。それに私にはなぜ甲板長が望むときにちんこを咥えてはならないのかがわかりません。しかし今の氷山がどれほど分厚いかを見てほしい、そして風がどんどん強くなっている! 私たちはこの船を南に向けなければいけません、というのももし北へ進み続ければ、私たちは難破して溺れてしまうでしょう」

「ああ、まったくだ」と甲板長は言った。「たしかに、北へ進み続けていることはひどいことだ。しかし、私はなぜ隠れてちんこを咥えなければならないのだろうか? なぜフルーツと呼ばれなければならないのか。私は他の人々と同じくらい良い人間ではないというのか」

「北への航海はひどいことです」と女性の乗客は言った。「でも、わからないのですか? それこそが女性が暖かくあるために毛布が必要な理由なのです。私は今女性への平等な毛布を求めます!」

「それはまったくの事実だ」と、教授は言った。「北への航海は私たち全員に多大な困難をもたらすだろう。しかし、南に進路を変えることは非現実的だ。時計を元に戻すことはできないのだからね。我々は状況に対処するための成熟した方法を見つけなければならない。」

「みなさん」と給仕は言った。「もし私たちが船尾甲板の上の狂人四人に好き勝手させるなら、私たちはみな溺れるでしょう。もし私たちが船の危険をなんとかすれば、それから労働条件や女性の毛布、そしてちんこを咥える権利について心配することができます。しかし、まず最初に私たちはこの船を転回させなければならない。私たちの数人が集まり、計画を立て、そしていくらかの勇気を示すならば、私たちは救われることができる。大人数はいらないでしょう――6人か8人いればいい。私たちは船尾に突撃し、狂人たちを船の外に追いだして、船を南進させることができる。」

教授は鼻を上げて厳格な口調で言った。「私は暴力を信じていない。それは不道徳だ。」

「暴力を行使するのは非倫理的だ」と甲板長は言った。

「暴力は恐ろしいですわ」と女性乗客は言った。

船長と航海士たちは一部始終を見聞きしていた。船長からの合図で、三等航海士がメイン・デッキに降りた。彼は乗客と乗組員の間を行き来し、船にはまだ多くの問題があると言った。

「我々は大きな進歩を遂げました」と彼は言った。「しかし、なされるべきことはたくさん残っています。甲板員の労働条件は依然として厳しいものであり、メキシコ人はまだ白人と同じ賃金を得ていません。女性はいまだに男性と同じ毛布を持たず、インディアンの土曜日の夜の賭博は、彼の失った土地のためにはわずかな補償に過ぎません。また、甲板長が隠れてちんこを咥えなければならないことは不公平です、そして犬はまだときどき蹴られている」

「私は船長にもう一度通告する必要があると考えています。みなさんがまた別の抗議を続けることはその助けになるでしょう――それが非暴力のままである限り」

三等航海士が船尾に戻るとき、乗客と乗組員は彼に侮辱の言葉を投げかけたが、それでもやはり彼が言ったとおりに抗議のために船尾甲板の前に集まった。彼らは叫び、荒れ狂い、拳を振り回し、そして船長に腐った卵を投げさえした(彼はそれを巧みに避けた)。

その不満を聞いたあと、船長と仲間たちは集まって会議をした。そのあいだ、彼らはお互いにウィンクし、あきらかにニタリと笑った。それから船長は船尾甲板の前に立って次のように宣言した。甲板員は手が凍えないための手袋を与えられる、メキシコ人船員には白人船員の4分の3に相当する賃金を得る、女性はもう一枚毛布を与えられる、インディアンの船乗りは土曜と日曜の夜に賭博場を開催することができる、甲板長は暗くなった後であれば公の場でちんこを咥えることが許される、そして船長からの特別な許可なしで犬を蹴ることができないとする。

乗客と乗組員はこの偉大な革命的勝利に有頂天となった。しかし翌朝には彼らは再び不満を感じ、そして以前と変わらないような苦難について悩み始めた。

給仕は、今度は腹を立てた。

「あなたたちはひどいバカだ!」彼は叫んだ。「船長と航海士たちがしていることがわからないのか? 彼らは毛布や賃金や犬が蹴られることのような些細な問題ばかりをあなたたちの頭に詰め込んで、この船の本当の問題について考えないようにさせているのだ――つまりこのままさらに北進を続ければ、私たちはみな溺れてしまうということだ。もし少数でもそのことに気づいてくれれば、一緒になって船尾甲板に突撃して、この船を方向転換させ、私たちを守ることができただろう。しかしあなたたち全員がしていることは、労働条件や賭博やちんこを咥える権利のようなささいな問題について泣き言を言うだけだ」

乗客と乗組員は激怒した。

「ささいだって!」メキシコ人は叫んだ。「白人の4分の3の賃金しかもらえないことが納得できるっていうのか? それはささいなことか?」

「よくも私の苦しみを些細と呼ぶことができたね」甲板長は叫んだ。「君はフルーツと呼ばれることがどれほど屈辱的か知らないんだ」

「犬を蹴ることは「ささいな問題」ではない!」と動物愛護家は叫んだ。「無情であり、残酷で、残忍だ!」

「わかった、では」と給仕は答えた。「それらの問題はささいな、細かいことではないです。犬を蹴ることは残酷で残忍で、フルーツと呼ばれることは屈辱的でしょう。しかし、私たちの本当の問題と比較すれば――つまり船がまだ北進し続けているという事実と比較すれば――あなた方の不満はささいで取るに足らないことです。なぜならもし私たちが船をすぐにでも方向転換させないと、私たちは溺れてしまうのだから」

「ファシスト!」教授は言った。

「反革命主義!」女性の乗客は言った。そして、乗客と乗組員が一緒になって次々と大声でがなりたて、給仕をファシストや反革命者と呼んだ。彼らは給仕を追い払うと、賃金、女性の毛布、そしてちんこを咥える権利、そして犬がどう扱われるかについて嘆くことをふたたび始めた。船は北へ進み続け、しばらくすると二つの氷山の間で沈没し、全員が溺死した。

2 comments

  1. 腐敗した体制下での漸進主義や改良主義の
    行き着く果てを描写した見事なアイロニーですな( ´Д`)y━・~~
    私はこの国に見切りを付け、将来イベリア半島にでも
    引っ越す予定なんでどうでもいいですけど、
    “日本の”“自称”自由主義者や社会主義者達は
    天皇だの官僚だの宗教右翼だのといった
    全体主義者の死に損ないに這い蹲って自由や平等が得られると
    本気で思ってんでしょうか?だとしたら噴飯物ですな
    ベンジャミン・フランクリンやボナベンツラ・ドゥルッティ辺りが
    こんなのを見聞きしたら多分怒り狂うか笑い死ぬかのどっちかでしょう
    近代民主主義は屈従を良しとしない自由人のライフルの銃口から生まれた-
    こいつは比喩どころか歴史的事実(アメリカ独立とか)なんですがね………

  2. このブログ投稿と似たような事は、かのオーウェル先生も指摘してましたね…
    “スペインの秘密を明かす”…ってタイトルの記事で彼は書いとります
    サイト欄の所にurlは貼っときましたがリンクが機能してないなら
    ご自身でググるなりアヒるなりして下さい

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